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カミハルムイ.jpg
「天を超えて」
王都カミハルムイ北 駅前広場 D2E2付近
開催時間  24:00 - 24:30

願いを込めて風船をみんなで飛ばしましょう。

 

風船をアイテムとして飛ばすと、約90秒後に手から離れて、天高く舞い上がっていきます。風船が登っていくのを見ながら、お願い事をまわりにチャットで言ってみましょう!(しぐさ「風船ふわふわ」でも代用可能です!)

みんなの願いが叶うように、願い事をしているひとを見つけたら、「いいね!」してみましょう!

 

みんなで一斉に飛ばすと、なお素敵です。

当日はティアフェススタッフたちが、みんなで一斉にふうせんを使うよう合図をしますので、気づいたら是非ご一緒にやってみましょう!

​王都カミハルムイ編

FINALE

GRAND FINALE SHORT STORY

 広い通りの端、花壇の前に並べられた木製のテーブルの上に、サイコロが2個、置かれていた。なぜ?

 他には何も置かれていないし、周囲には所有者らしき人は見えなかった。

 サイコロは、1の目がオレンジ色のスライム型をしている。椅子に座り、手に取ろうか悩んでいると(これがダンジョンなら罠の可能性もあるので)、声をかけられた。少年の声だ。

「あの、そのダイス……」

 顔を上げると、優しそうな顔の少年が立っていた。

「これ?」

「あ、もしかして、お祭り屋さんの知り合いの方ですか?」

「お祭り屋さん……はきっと知らない人かなぁ。通りかかったらサイコロが置いてあったから、何だろうと思って見ていただけだよ。これ、君の?」

「お祭り屋さんが貸してくれたんです。この間、ここでTRPGしてたら幸運のダイスだって言って貸してくれて。おかげで『かいしん』が出て勝てたんです。なのに無くしちゃってて、もしかしたらって思ってここに来たんです」

 安全そうかな、と思って触ってみる。魔力は込められていないようだし、何度か転がしてみたけど不自然なところはない。ごく普通のサイコロだ。

「あの、お姉さんは冒険者ですか?」

「一応ね」

「あ、じゃあお願いがあるんですけどいいですか?」

「お願いの中身次第かな。どんなクエスト?」

「そのダイスを、お祭り屋さんに返して欲しいんです。忙しいから最後まで見てられないし返さなくていいって言われたんですけど、やっぱり幸運のダイスだし……」

「なんて名前の人?」

「名前はわからないんですけど、カミハルムイで祭り屋って言ったらわかるって」

 祭り屋。職業だろうか?

「えっと、オーガのお姉さんでした。あとえっと、金色の髪で」

 人探しは根気が要る。まして違う街、通り名だけとなると、難易度は跳ね上がる。しかし引き受けようと思ったのは偽りのない少年の瞳がまぶしかったことと、

「あ、お礼もちゃんとしますから」

「いいよいいよ。ちょうどカミハルムイに行こうと思っていたところだから。じゃあ引き受けるね」

 カミハルムイに行くきっかけを、探していたからかもしれない。昔チームを結成した街、共に桜を眺めてピンクモーモンを狩った街、やがてメンバーがそれぞれの冒険に出るようになって会わなくなり、楽しかったころを思い出すのが嫌で足が遠ざかっている街、王都カミハルムイへ。

 

 カミハルムイは、相変わらずの静けさに満ちた春の街、ではなかった。桜は記憶のとおり音もなく舞っていたが、どの道も記憶以上に人通りが多く、あちらこちらに幟が立てられていた。お祭りが近いのだろう。

 それで、ちょっとほっとした。懐かしさで歩けなくならないか心配していたけれど、知っているカミハルムイとは違う雰囲気だったから。でも、思い出が暴れ出さないうちに酒場へと急ぐ。

「ああ、祭り屋さん? さっきまでそこにいたけど」

 長期戦になるぞ、と気合いを入れて尋ねたのに、しかし酒場のご主人からあっさりそう返された。

「有名な方なんですか?」

「うん、有名だね。顔も広いし。灯籠の準備で忙しそうだったから、今は木工ギルドにいるんじゃないかな」

「灯籠?」

「ああ、灯籠まつりだよ。今夜一斉に飛ばすんだ。世界の誕生を祝う気持ちと、それぞれの願いを込めてね」

 

 渡し船を使って木工ギルドへ。鑿と槌の響きを想像していたが、ギルド内は静けさが漂っていた。職人特有の張り詰めた緊張感、ではなく、人気がない。ひとりだけいた素材屋の子に尋ねたらこれまたあっさりと言われた。

「祭り屋さんなら、さっきまでいましたよ。職人さんたちを連れて騒がしく出ていきました。駅前広場方面だとは思うんですが、どこへ行ったかまでは……?」

 

 駅前広場に向かう道は南町より人が多く、遠くから太鼓の音も聞こえる。特ににぎやかだったのは通りの両側に建てられようとしている屋台で、大工道具が合奏しているようだった。おそらくは木工ギルドの職人であろう人たちに尋ねると「祭り屋なら、指示だけして飛ぶように行っちまったよ」と。

 

 駅前広場に着くと、祭り屋は一目でわかった。金色の髪のオーガの女性が、歩きながら周囲を取り囲む大勢に指示を出していた。駅前広場の一角、お茶屋の前に置かれた椅子とテーブルまでたどり着くと囲んでいた人が並んで自然に列が出来る。わたしも並ぶ。二十人近くはいたと思うが、すぐに順番はやってきた。力強い瞳がわたしを射抜く。

「あ! あちこちであたしを探してたお嬢さんって君のことか! 悪いね! すぐに終わるからちょっとここで待ってて」

 何も言う前にそう言われ、椅子を勧められる。夏の早足のあとの木陰の椅子は、ひんやりと心地よかった。手で顔を扇ぎながらふと駅の方を見ると、砂利の地面にずらりと灯籠が並べられていた。数えられないが百近くはあるのではないか。灯は入れられておらず、一つひとつに様々な花の絵が描かれている。

「これだけ揃うとすごいだろう。軽くて明るくよく浮かぶ、木工ギルドの技術を集めた逸品だよ」

 見ていたことに気付いたお茶屋の店主らしき小柄な中年女性がそう説明してくれた。なるほど、木工の街ならではの光景かもしれない。

 

 やがて、全ての人に指示を出し終えた祭り屋が、どしんと向かいに座った。と、同時に店主がお茶と桜餅を二人分並べる。

「ふぅ~。ごめんね~。昨日の嵐で準備が滞っててさ。それで、用件は何でしょう」

 これ、と言って革の小袋からサイコロを取り出して見せると、何も言わずとも理解したようだった。

「おお、届けに来てくれたのか。遠いところありがとう。あいつらクエスト成功させてた?」

「させたみたいです。幸運のダイスだから、『かいしん』が出たって」

「そりゃよかった。真剣な顔をしてたからさ、打ち合わせで忙しかったんだけど、つい声をかけちゃったんだよね」

 このダイスはさ、と言いかけたとき、遠くからお~い祭り屋、と声が聞こえ、それから背の高いエルフの男性が駅前の坂を駆け上がってきた。

「宿屋から連絡があって、去年の四倍の予約が入ってるから、灯籠見に来る客もだいぶ増えるんじゃないかって」

「四倍! 増えるとは思っていたがそこまでか。灯籠は元々個数限定だし風船の数は足りるだろうが、配布役が不足するかもしんないな」

「どうする。木工ギルドの奴らを引っ張ってくるか?」

「ちょっと考える。んー……。後半は南門の子らに頼もう。始まっちゃえば時間が出来るだろうから。前半はそうだな。木工ギルドから何人か集めて貰える? あ、そうだ、お嬢さん」

 とわたしを見る祭り屋。

「もし良かったら、ちょっと手伝ってくれない? これも何かの縁、ということで。大丈夫大丈夫。他にも人がいるからそんなに大変じゃないと思うし」

 

 嘘だった。大変だった。

 客は本当に絶え間なくやってきて、会場の場所を案内しながら風船を渡していく。割り当てられた木工ギルド前は三人態勢だったが、一人がトイレに行く間は列が出来るほどだった。三人で、ギリギリ。

 どれくらい時間が経ったのかはさっぱりわからなかったが、少し客が減ってきて座る余裕も出てきたころにやっと交代を告げられた。

「そろそろ交代のやつらも来るし、もう大丈夫そうだから、会場に行ってみなよ。ありがとな」

 告げてくれたオーガの男性も、汗だくだった。

 ほとんど何も考えられず、言われたとおり会場の駅前広場に向かおうと立ち上がる。と、背後の石垣の上の方からこっちこっちと声がする。見上げた先にいたのは祭り屋で、ひらりと飛び降りてきた。

「疲れたでしょ! おいしいもの食べよう」

 苦情のひとつも言おうと思っていたのに疲れすぎて何も言えないわたしは手を引かれるままにどこかの建物の裏口のような戸をくぐり中庭を過ぎ土間を歩き階段を登って廊下を行き、やっと祭り屋が止まったのは明るく透ける障子の前。特等席だよと笑った祭り屋がさっと障子を開ける。

 

 銀河が降ってきたみたいだった。

 視界いっぱい、風船と灯籠が舞っていた。目の奥に染みいる色とりどりの明かりたち。ゆらゆらと揺れ、いくつかはやがて高く昇っていく。明かりの連なりを目で追うと、空へと続く はしごのよう。

 どうやらここは、駅前広場を見下ろす駅舎のバルコニー。汗をかいた身に夜風が気持ちいい。確かにこれは特等席。

「さぁ何でもあるよ。食べよう」

テーブルを、屋台で売られている食べ物が埋め尽くしていた。匂いで空腹を思い出す。

 しばらくは食べて飲んで、ふたりで何も言わないまま明かりの織りなす光景を見ていた。

 

「やっといい顔になったね。人手が足りなかったのも事実だけど、あなたがなんだか暗い顔をしていたから、単純作業でもしたら元気になるかと思ってさ。余計なお世話かと思ったんだけど」

 性格は全然違うけれど、祭り屋にはなんだか親しいものを感じている。でも、初対面で見透かされるなんて恥ずかしい……。そんなに沈んだ顔をしていたのだろうか。

「……皆さんすごく一所懸命でした。祭り屋さんも、これを見るためにがんばっていたんですね」

「んーと、ちょっと違うかな。見るために、じゃなくて、見せるために、かな」

「誰に、ですか?」

 ちょっと語るか、と祭り屋がつぶやくように言った。間を開けて、ぽつりぽつりと、ちょうど、灯籠のようなリズムで祭り屋は語る。

 

 あたしにも昔、もっと冒険者らしい冒険者だった時期があってね。この街に来て、たくさんの仲間が出来た。何もかもが楽しくて、どこに行ったって何を見たって新鮮で、夢中になってた。でも、だんだん仲間は去って行った。次の冒険を求めて旅立ったり、違うことに夢中になったりして、もう会わなくなったやつらが大勢いる。だけど、それは仕方のないことだしそれでいいと思ってる。だって、そうやって次々おもしろいことを嗅ぎつけるやつらだからこそあたしたちは出会ったんだと思うから。お互い元いた場所から旅立ってきたから会えた訳だし、だったら旅立つ気持ちを否定しちゃいけないんだと思う。それはわがままじゃないかってね。そう考えたら、あの頃は思いもしなかったけど、偶然同じタイミングで同じおもしろさを嗅ぎつけて出会ったのって、すごく、なんというか、それ自体とても貴重なことだったんだって今は思う。

 

 あるとき、と祭り屋は続ける。

 

 あるときこの灯籠まつりを知ったんだ。この辺りでは元々家庭で行う伝統行事で、祭りとしても細々と続いていたらしいんだけど、願いを込めて飛ばすのがいいなぁって思ってさ、今もだけどその頃も新しい仲間がいたし、だいたい満足いく生活してて、願いたいようなことがあるかなって考えたとき、思い出したのがあの頃の仲間だったんだよね。あたしが知ったときの灯籠まつりはもっと小規模だったんだけど、それでもすごく綺麗でさ。もっとたくさん集まったらもっと綺麗になって、話題になって、そしたら、旅立っていったあいつらにも届くんじゃないかって思った。本当はこの光景を見に戻ってきて欲しいけど、あの頃みたいに一緒に冒険して笑い合えたらいいなって思うけど、それは多分無理だから、わがままだってわかってるから、でもせめて、あたしは今も、ここで元気にやってるよって、そしてちょっとの間でいいから、あの頃のことを思い出して欲しいなって。

 

 わたしは流れる涙を拭かなかった。その方が、明かりがもっと綺麗に見えるから。

 

「きっと、届きますよ。こんなにも、綺麗なんですから」

 美しい光景だった。それは、本当に、美しい光景だった。こんなにも美しいのはきっと、この明かり一つひとつが、誰かの願いごとだからだ。

 

 涙声の祭り屋が「届くといいな」と言ったとき、手の届きそうな高さを漂っていた灯籠が、ふわりふわりと昇り始めた。その願いごとも、行くのだろう。叶えるために、届けるために、天を超え、どこまでも、どこまでも。

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