偽グランゼドーラ王国編
GRAND FINALE
GRAND FINALE SHORT STORY
「うわー!うわー!すごい人ですよ、先輩!」
そう言って後輩は翔ぶように人混みを抜けていった。
エルフである後輩は、浴衣に慣れているのか歩みも軽やかで、蝶の紋様が羽ばたいているようだった。
わたしはというと、裾がはだけやしないか心配で歩幅が小さくなるし、珍しく結い上げた髪は多分ほどけかけている。
勇者の橋は、確かにすごい人出だった。花火の見やすい位置を早めに確保しようと来てみたものの、既に遅かったようだ。
「先輩、こっちこっち!」
飛び跳ねる後輩がいたのは、欄干そばのスペースだった。
両側にオーガの集団がいて、大人数で居るには狭いけど、二人には程よさそうな隙間が空いている。
「想像よりずっとすごい人でした! これは、他のメンバーと会うのは難しそうですね」
チームの仲間たちと合流しよう、という話も出ていたのだが、合流は諦めた方が良さそうに思う。
「去年もこんな感じだったんですか?」
「去年も多かったけど、今年の方が、多いような気がするな」
冒険者になって日の浅い後輩は、今年が初めての参加だった。
楽しみだ楽しみだとはしゃぎ周り、何週間も前からこれを見てあっちをまわってと計画を立てていた。結局計画以上に見て回ることになり、冒険とはまた違う体力を使い、しかしそれは心地よい疲れだった。欄干にもたれかかると、ひいやりとした潮風が首筋を撫でていく。
後輩は、チームの仲間たちとの合流を諦めていないのか、何歩か歩いては辺りを見回し戻ってくる、を繰り返していた。
よそ見をするものだから歩いていたオーガのお兄さんと軽くぶつかり、謝り謝られ、最後には花火をもらって帰ってきた。
「いい人たちでした!」
そのいい人たちと目が合ったので会釈をすると、お兄さんたちは手に持っていたクラッカーをぱんっと鳴らし、笑いながら大きく手を振って去っていった。なるほど、いい人たちだ。
疲れのせいなのか、ふと、わたしを見上げる後輩の顔が、初めて見るように思えた。
これは誰だろう。いや、情報としては知っているし、急に顔が変わったわけではない。
ただ、同じ文字を見つめ続けていたら急にその文字が何かわからなくなるような、目元や鼻、口元など顔の細かな造作の印象が強くなるような、そんなジャメヴ。
わたしたちは、どうしてここにいるのだろう。
「先輩?」
「……今日は、楽しかった?」
「はい! とっても!」
ふたりでここにいるのが、不思議だった。一年前にはまだ会っていない二人が、今年はこうして花火を待っている。
何かひとつ選択肢が違っていたら、きっと二人ここにはいなかったけれど、でも実際はここにいる。
「あ、先輩、あの人たちもスライムピアスしてますよ!」
指の先には、ウェディのカップルがいた。耳元に、スライムピアスが揺れている。わたしと後輩の耳にも同じものがある。
せがまれて、二人でマリンスライムを倒しにいった、その成果。
急に、周りの音が聞こえるようになった感じがした。
周りは、知らない人だらけだった。
たくさんの、本当にたくさんの人がいて、それぞれ違う旅路を歩んできて、明日からはまた別の道を行くんだろうけど、でも今日はここにいて、同じ夜を過ごしている。
同じ花火を見ようとしている。
それって、なんか、すごい。
この街は、確かに作られた世界ではあるけれど、旅を続けるそれぞれの理由があり、感情を交換し合い、例えば十年後に、お祭りの夜こうやって花火を見たことをお互い思い出せるとしたら、それが本物でなくて何だというのだろう。
後輩の顔は、もう不思議には見えなかった。
その代わり、愛おしさがわたしの胸に満ちていた。
たくさんの偶然を重ねて、出会ってくれてありがとう。これからもよろしく、と言いたかったけれど恥ずかしくて思いとどまったら後輩が、急に変なこと言っちゃいますけどと前置きして、
「これからもよろしくお願いしますね!」
と言ったから、思わず笑い出してしまった。
さぁ。
花火を上げよう。
みんなで、花火を上げよう。
「素敵な出会いを、祝おう!」
偽グランゼドーラ城 勇者の橋
開催時間 24:00 - 24:30
花火を打ち上げて、アストルティアの生誕をお祝いしよう。
偽グランゼドーラ城 勇者の橋では、みんなで花火を打ち上げて、アストルティアの生誕をお祝いします!
打ち上げ花火はそれぞれでご用意いただけるとより一層楽しめると思います。
打ち上げるたびに
「ハッピーバースデー!アストルティア!」
と白チャットで是非叫んでみてください。より、お祝いムードが演出できます!
花火の打ち上げ自体は0時15分(アストルティアの夜明け時間)を目途に終了します。
その後はフリータイムとなります。その場に残って交流を楽しむもよし、
他の場所に移って、他の交流を楽しむのもまた楽しいでしょう!